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母よ（講談社）／青野聰

Name: 母よ（講談社）／青野聰
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1991年6月10日第1刷発行。青野聰は、1943年7月27日生まれ、東京都出身の小説家です。本作は全5章からなる小説で、それぞれ共通してタイトルの「母よ」という呼びかけのような書き出しから、ときには著者の＂自分語り＂のように、自らの過去と現在、放浪と停滞が時系列を無視して綴られていくので、読者は戸惑うかもしれません。しかしそれは、亡くなった母親に呼びかけることで、小説に＂生＂を吹き込んでいこうとする挑戦でもあります。著者の父親の青野季吉は、初期プロレタリア文学の文芸評論家であり、大正14年には「（作品の）その存在の社会的意義を決定しなければやまぬ」外在批評論を主張し、小林秀雄と論戦を行なったこともあり、家庭人としては東京世田谷の経堂に本妻のみづほと愛人の松栄を住まわせて、その間を行き来する生活を送っていました。そして、その松栄から生まれたのが著者であり、2歳で松栄が結核により死去し、6歳で継母みずほとの同居生活が始まるという複雑な家庭環境で育ちました。そして1962年、著者は早稲田大学に入学しますが、1966年中途退学してヨーロッパへ渡航、その後は1977年2月に帰国するまで、パリを拠点にロンドン、ギリシア、イスラエル、インド、メキシコ、グアテマラ、ボリビアなど世界各国を放浪し、結婚と離婚を2回ずつ繰り返しました。そんな著者が呼びかける「母よ」の呼びかけの相手は、記憶のなかに朧げに残る生みの親の松栄であり、彼女と父親との逢瀬の至福や、早逝した母親の命と引き換えに生かされているという感謝と罪悪感が、想像力の源泉となり、現在の物語に繋がっていきます。それは同時に、これまでの放浪生活からひとつの場所に定住することや、心と体を重ねてきた女性たちとの遣り取り、そこから生まれた新しい生命、自分が父親になった居心地の良さと悪さをすべて受け入れようとする覚悟があるような気がします。最終章『母よ、足の下で霜柱が＂あさっさん＂と鳴きます』では、著者（を反映した主人公）は息子の通う幼稚園でサンタクロースの変装をすることになります。決して息子には正体がわからないように、フィクションである完全なサンタクロースとなるために。この他愛のない変装を巡る一連の出来事が、何でもない日常に＂生＂を吹き込む美しいエンディングになっていると思います。美品です。

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カテゴリ	本、雑誌、コミック文芸日本文学小説　男性作家
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