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矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」岩波書店発行 1988年6月15日第1刷 1988年12月1日第2刷

Name: 矢内原 忠雄「帝国主義下の台湾」岩波書店発行 1988年6月15日第1刷 1988年12月1日第2刷
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「帝国主義下の台湾」矢内原忠雄著岩波書店発行 1988年6月15日第1刷 1988年12月1日第2刷 303頁索引 8頁サイズ約20cm×14cm×2.1cm 定価 2400円表紙カバー付き表紙カバーヤケ。背強めにヤケ。本体三方小口ヤケ殆ど認められず。本体頁ヤケ殆ど認められず。（以下、「序」より）本書の第一篇は『国家学会雑誌』第四十二巻第五号乃至第九号に、又第二篇は『経済学論集』第七巻第一号に、掲載せられし拙稿に夫々修補を加へたるものである。始め之等の論文の雑誌に発表せられし直後、伊能嘉矩氏の遺著『台湾文化志』が刊行せられた。三巻約三千頁より成る大著である。板沢武雄氏の跋文によれば伊能氏は稿全く成りただ書名のみ未定のまま逝去せられたといふことである。而して伊能氏自身は之を「清国治下の台湾」とでも題すべきかと言はれしことあるも、記述の範囲は清国領有時代の前後に亘り且つ歴史地理政治経済宗教教育人種民族学芸等文物百般を網羅せる綜合的研究なるが故に、遺稿出版者に於て之に『台湾文化志』なる書名を附せられたといふことである。併し乍ら此書の最主要部分は清国領有時代であり、筆を日本の台湾獲得に措いて居る。又内容に於ては清国統治の行政制度の記述に著者精力の主力が注がれて居るのである。伊能氏の大著の取扱へる主題が「清国治下の台湾」なるに対し、私の本書は「日本治下の台湾」とも題せられ得べきものである。即ち主として日本領有以後日本の勢力の下に如何に台湾が発展したるかの研究にして、時代よりいへば伊能氏の著書に接続するものである。本書は伊能氏の著書に対してたただに主題とせる時代が異り、又頁数が比較にもならぬ程小なることの外に、内容の取扱上尚若干の特徴があると思ふ。第一に、本書の内容も亦経済政治法制教育等諸般の問題に亘るといへども、私の最も力を注げる点は経済的発展であつて、他の方面は簡略に記述せるのみ。他の方面が重要ならずといふのではないが、私の研究が主として経済に関するが故である。且つ日本の台湾統治の諸政策は従来経済的発展を主たる眼目として遂行せられ、否、日本の台湾に対する経済的要求が台湾統治の諸政策を決定したる最有力の原因たるが故に、台湾統治の意味を探らんとせば研究の主力を経済的関係の分析に置くべきは当然である。第二に、本書は事実の歴史的叙述を為さないではないが、私の主力を注げる処は事実の意味の説明である。日本の領有後の台湾の状勢に就ても其沿革及現状に関する事実の叙述は台湾総督府の出版物其他著書に乏しくない。私は之等官民の出版物によりて提供せらるる事実を材料として台湾の、又台湾に対する、経済的政治的発展の事実関係の分析を試み、その社会的意味を探り、台湾統治の性質を明かにせんと欲したるものである。而して其の意味其の性質たるや、独占資本主義段階階としての帝国主義的特徴を備ふるものなるが故に、本書を題して「帝国主義下の台湾」と称するものである。以上の如く、本書は経済を中心として見たる台湾の社会的発展の科学的分析である。一定のの理論に即して社会的事実の分析を試みてその意味を探り、而してこの具体的分析の結果として科学的理論を或は確立し或は是正する。植民地の社会科学的研究も亦この方法による外はない。ただ台湾のみならず・朝鮮も印度もアルヂェリー共他の植民地もすべて此方法によりてのみ真にその植民地性を認識し得べきである。而して之れ同時にその時代を支配せる国民経済及政治並に世界経済及政治の活動形態を明かにし、その社会的意味を如実に把握し得る所以である。植民地の学問的研究の可能性及重要性はここに存すると思ふ。されば本書の主題は台湾であるけれども、同時に日本帝国主義の、更に進んでは帝国主義的植民政策一般の研究である。台湾を具体的の例として、帝国主義的植民政策の理論並に日本の植民政策をぱその活動形態に於て説明したるものである。本書は科学的分析の書にして政策提唱の為めの政論を為すものではない。併し乍ら事実関係の分析は問題の所在及性質を明瞭に指摘し、又歴史的発展の把握は今後の発展方向を指示するものである。過去の政策の説明現在の政策の批判及び将来の政策の樹立は、事実発展の正確なる認識によりてのみ可能とせられる。今日及将来の政策を決定するものは過去及今日に於て現はれたる事実及事実発展の方向である。この事実関係を正確鋭利に分析しその社会的意味を知り其発展の方向を跡附けするを以て科学の任務とする。故に科学は過去を知らしめ現在を知らしむると共に一歩先の将来をも予想せしむ。之によりて政策を樹つるは政治家の任務である。本書は政論にはあらざるも、植民地統治の方針に関して若干の「天気予報」を包含するものなることを一言する。本書は貧しきは貧しくとも私の科学上の一労作である。併し植民地問題に関する私の心情を披瀝せしめば、私は「虐げらるるものの解放、沈めるものの向上、而して自主独立なるものの平和的結合」(拙著『植民及植民政策』六〇七頁)〔全集、第一巻四八三頁〕)の実現をば衷心仰望するものである。本書はかくの如き心情を有する著者のかくの如き心情を以てせる学問的一労作である。始めに言へる如く本書は既に発表せられたる二篇の論文より成る。よし若干の修補を加へたりとはいへ、今更めて之を一書と為すは友人の勧めに基き閲読の便宜を計りたるが為めである。ここに序文を附するに当り、本書の性質を説明し併せて志を言ふ次第である。昭和四年(一九二九年)九月東京大森八景坂上にて著者

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